2018.12.07
今回のコラムでは前後編の2回に分けて、流通・小売業におけるRPAの活用について考えてみたいと思います。
新たな成長戦略として日本政府が掲げる「未来投資戦略2018-『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革-」。その中で、人工知能(AI)、ロボット、IoT(モノのインターネット)などと並び、RPA(Robotic Process Automation)も重要なテクノロジーとして紹介されています。これらの技術活用によってもたらされる「第4次産業革命」は、さまざまな課題を解決する「Society5.0」で実現される新たな国民生活や経済社会の姿を提示しています。
しかし、テレビなどのメディアで数多く取り上げられているAIやロボット、IoTなどと比べると、RPAは若干、派手さには欠ける面があるしれません。RPAの場合はこれまで存在していなかった驚くような技術が応用されているわけではなく、コツコツと作業を自動化するものなので仕方がないのかもしれません。
確かに派手さには欠けるものの、すでにビジネスのリアルな現場で活用され、コスト削減や業務のスピードアップといった現実的な結果を生み出しているという点では、RPAが一番手となるのではないでしょうか。もちろん、他の技術もすでにさまざまな現場で利用が開始されていますが、PoC(proof of Concept)や実証実験の域を出ていないことが多いのが現状です。
また、RPAの良いところは大きな投資をしなくても、1台のPCがあればすぐに使い始められるところです。先進的なクラウドやロボット、5Gの通信環境などは不要。また、プログラミングやマクロのような専門的な知識や技術、情報システム部門の介入さえも不要です。まさに、日本の企業を、今すぐに救うことができる「現実解」であると言えるのではないでしょうか。
では、ここでRPAについておさらいをしておきましょう。RPAとは、PCで行う事務処理作業を自動化・効率化・高度化するシステムで、人を介さずに作業を進めるられることから、人的なミスや漏れを防ぐ手段としても注目されています。
“ロボット”という響き。AIなどと一緒に語られることも多いこと。そして、人間の補完として業務を遂行できることから、一部では「仮想知的労働者(Digital Labor)」と呼ばれることもあります。
自動で動く機械的なロボットがイメージされることもありますが、実態はPCやスマホなどで稼働するソフトウェアとなります。さまざまな場面でIT化・デジタル化されてきた事務処理作業で、取り残されてきた手作業を効率化・自動化するソリューションとして注目されています。
一方、すべての業務をRPAがカバーできるわけではありません。人間が判断したり、考えたりしなくても実行できる定型・反復作業はRPAが得意とするところですが、人の「思考・判断」が必要な作業はRPAには不向きだと言われています。
RPAの適用範囲
繰り返しとなるかもしれませんが、RPAはPC上で指示された作業手順(シナリオ)を実行するためのソフトウェアに過ぎません。そのため、インストールしただけでは何もできません。RPAに実行する作業のシナリオ(手順)を教え込まなければなりません。
「教え込む」と書くと難しいことのように感じるかもしれませんが、実際のシナリオ作成・編集作業はとてもシンプルです。プログラミングのような専門的な知識や手順は不要です。ほとんどのRPAツールが、フローチャート画面上でのドラックアンドドロップやクリック操作で編集が可能となっています。一方、プログラミングの技術や経験があれば、より高度なシナリオやロボットを作成することもできます。
シナリオ編集イメージ( WinActorのサンプル利用画面)
筆者の私見となりますが、RPAの導入に失敗しないためのコツも紹介しておきましょう。
第一に、本格的に導入の検討を開始する前に、トライアルプランやハンズオンセミナーなどで実際に触ってみて、勘所をつかむことが重要だと思います。
次に、使いやすいRPAツールを選択し、短期で成果が出る業務からはじめることがポイントとなります。自動化しやすいところから利用を広げていき、効果を知らしめ、周囲の理解を得ることが重要です。いきなり大きな業務の自動化に立ち向かうと上手く行かないこともあり、それがRPAの評価になってしまう場合もあります。できれば、そのような状況は避けた方が賢明でしょう。
実際には、以下のような手順を踏んで導入を進めていくと上手く行くケースが多いようです。
しかし、さまざまな事情により現場のリソースだけで業務の洗い出しやRPAの導入に取り組むのは難しく、IT部門から十分なサポートも受けられないというケースもあるでしょう。そのような場合は、RPAの販売会社が各手順を代行および支援するサービスを提供しているので、そのようなサービスを活用するのも一つの手です。
そのような場合でも丸投げをするのではなく、最初は専門家の手を借りても、最終的には社内で運用・適用範囲の拡大を図る体制を整えていくことが重要です。業務プロセスや業務環境は常に変化していきます。そのたびにシナリオの変更や動作確認を依頼しなければならないのは非効率的であり、コスト面での負担も膨らみます。そのような支援も受けられる販売会社やサポートベンダを選ぶことも、RPA導入の成否を分けるポイントとなるでしょう。
後編では、RPAの適用範囲や適用業務について見ていきたいと思います。
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